青花ナスタ開花
Tropaeolum azureum
青花ナスタチウム


 栽培に関する概要

1996年に青花ナスタの存在を知り,97年春から種まきを始めました.初年度は種袋の裏に書いてあった説明通り,冷蔵庫で寒さに当てる方法をとり発根は見られたのですが,夏に向かう季節だったため後が続かずじまいでした.98年には1月に種まきし発芽は見られたのですが,やはり5月にダメになってしまいました.99年も発芽したものの開花には至りません.ところがこの年,地上部が枯れた後,思わぬ球根(愛を込めて「イモ」と呼んでいます)の発見をしました.そして同年11月にこのイモに水やりを開始し,2000年4月に念願の開花にこぎつけました.この苦労談の詳細は下記を参照して下さい.

 青花ナスタ栽培奮闘記

こうして長い道のりを経て,自分なりに栽培に関する様々なデータを得てきました.ここにそれらをまとめてみました.【コラム】には,「画像付きの詳しいデータ」「ふと思ったこと」など,今までの体験を元にした話題を載せています.皆さんの栽培のヒントになれば幸いです.

原産地 南米チリ.zone9の地域.
生育サイクル 秋に種まきを行い,秋から冬にかけて成長し,春に開花します.生育が良好でうまく球根が出来た場合には,地上部が枯れた後,地下部の球根で休眠して夏越しします.そして秋にまた目覚めて成長を開始する…というライフ・サイクルです.
耐寒性 やや耐寒性があります.ただ,霜や寒風にさらされ続けるとダメージを受けますので,何らかの対策は必要です.

大阪では毎年,軒のある南側ベランダで越冬しています.2003年度に屋根のない北側ルーフ・バルコニーで生育実験(寒さ対策無し)をしましたが,霜でダメージを受け,さらに容赦なく吹き付ける北風でおそろしく成長が阻害されました.春になって一応開花したものもありますが,消えてなくなったものも多かったです.生き残った株も,南側で育ったものとは比較にならないほど貧弱でした.

一方,蓼科で種まきしたものをそのまま置いておき,秋も深まってから大阪に連れ帰った事がありました.そんな蓼科滞在中のある時,霜が降りて鉢土の表面が真っ白に凍ったのです.その鉢からは数本発芽していたので焦ったのですが,氷の結晶の中で青々した茎がそのままの状態でありました.数時間したら「おひたし状態」になるかな?と心配だったのですが,日が射して氷が溶けても無事で,結局何事も無かったかのようでした.この事からも青花ナスタは「ある程度の耐寒性がある」と言えそうです.

多少の耐寒性はありますが,寒冷地では温室(もしくは室内で栽培する場所)が必要です.

※寒冷地栽培の一例として,信州でT.lepidumの開花に成功されたヒロさんの栽培記録(2002年)が参考になるでしょう.T.azureumもT.lepidumも同様の扱いでOKです.
種・球根の入手 普通の園芸店ではまず入手できないので,通販(主に海外から個人輸入)で入手します.私が個人輸入した経験のある種苗会社は下記の通りです.

・種・球根の入手先
 T&M(種)
 Chiltern Seeds(種)
 Rare Plants(球根)
用土
2017年改訂
種まきの際には,使い古しの用土は避け肥料分の無い新しい用土を用意します.私の所では,赤玉土:鹿沼土を1:1の割合でブレンドしています.イモの芽だしについて,以前は9月上旬に用土(鹿沼土と山野草土半々のブレンド)に埋めて外に出していたのですが,一度長雨に遭いイモがほぼ全滅という憂き目に遭ってしまいました.それで2017年度からはイモを掘り上げ室内置きにし,勝手に芽が出たものから定植する方法に切り替えています.

定植の際には,水はけの良い用土を用意します.
私の所では,以前は赤玉土:腐葉土:バーミキュライトを4:4:2位の割合でブレンドしていましたが,今では赤玉土は使わず,鹿沼土:山野草の土半々にクンタンひとつまみをブレンドしています.ただ,実際にはちゃんと量っているわけではなく,適当(目分量)です.

いずれの場合にも,水はけを確保するためにすべての用土を必ず1ミリ目のフルイにかけて,微塵(みじん)を取り除いています.
【コラム】フルイの話 
【コラム】鉢底石の話
水やり 普通の植物全般に言える事ですが,土が乾いたらたっぷりと(鉢底から水が出るくらいまで)水やりします.

成長期が冬場なのであまり神経質になる事はありませんが,過湿を嫌うので逆に「水のやりすぎ」にならないように気をつけます.冬場は夕方水やりすると翌朝冷え込んだ場合に土が凍るおそれがあるので,水やりは午前中に行います.

開花期には週に一度,水やりを兼ねて液肥を与えています.
肥料 定植の際に,私の所では元肥として5号鉢でマグアンプKをひとつまみ程入れていますが,これは各肥料の説明書に書いてある規定量で良いでしょう.

開花期(2月以降)には,週に一度,水やりを兼ねて規定量に薄めた液肥を与えています.気候のせいで成長期間が短くなる場合は冬(12〜1月)にプロミックなどの置き肥を置く時もあります.
花芽と開花 花芽は独特な五角形をしているので,葉芽とはすぐに区別がつきます.最初はごま粒ほどの小さな五角形ですが,気温の上昇と共にグングン成長していきます.種から栽培している場合は,3月下旬から4月にかけて開花が始まります.

開花して数日経つと花が成熟し香りが立ち始めます.ニオイスミレのような甘い香りです.そして花弁の色は開花したての頃に比べて淡くなっていきます.
【コラム】花色の変化
【コラム】イモ,イモ,イモ…(2001年度栽培データより):開花数と結実数のデータがあります.
 ナスタチウム仲間の花を分解してみると
繁殖(挿し芽) 挿し芽は可能です.実際にはあまりやった事は無いのですが,過去に誤って折ってしまった茎を土に挿して成功した例があります.ただ,実施するなら生育旺盛な秋(年内)にやらないと意味がないでしょう.というのも,年が明けてからでは,春に開花はおろか,球根を作る事も出来ず,そのまま「挿し芽に成功しただけ」の成果に終わってしまうからです.
繁殖(受粉) 自家受粉できます.開花して数日経つと良い香りがしてきます.香りが立つようになり,おしべの先の花粉が粉っぽく(黄色が濃く)なってきたら受粉時です.小さな筆かベビー綿棒で花粉をめしべ柱頭につけるようにします.花の構造は下記リンクでご覧下さい.
青花ナスタを分解してみると…受粉のために
繁殖(球根) 挿し芽と受粉はヒトが意図的に行える作業ですが,球根作りだけは「株まかせ」で「運を天に任せる」しか無いのです.葉が旺盛に茂ると球根はできやすくなるので,鉢を適正な環境に置き,適正に水やりし,成長を見守る事が球根作りの助けになります.
採種と保存
2017年改訂
受粉に成功すると次第に種がふくらんできます.最初は小さな黄緑色の粒ですが,それがだんだん大きくなってきます.1つの花で1〜3個の種が採れます.

ある程度の大きさになると私は早取りしてしまいますが,そのまま放置すると茶色になっていずれ自然落下します.
早取りしたタネはティッシュ・ペーパーにくるんで机の上に品種名,親株名,採種日付を記して置いておきます.2〜3週間放置するとタネは干からびてきます.その間(特に水分が出やすい初期の頃),カビ防止のために1〜2度ティッシュ・ペーパーを新しいものに替えます.充分干からびて黒くなったらチャック付きのビニール袋に入れ,冷暗所で保存しています.パラフィン紙に包んで保管するのも良いでしょう.
【コラム】タネの話
【コラム】イモ,イモ,イモ…(2001年度栽培データより):開花数と結実数のデータがあります.
球根の堀り上
げ(イモ掘り)と保存

2017年改訂
地上部が枯れ上がるといよいよイモの確認です.タネからスタートした物はイモが出来ているか,イモからスタートした物はどれ位イモが肥大したか,ワクワク・ドキドキする一瞬です.

イモの保存について,2016年まではいろいろな方法を試していました.
初期の頃,イモを堀上げバーミキュライトに埋めて夏越しさせたところ,ものの見事に全てのイモが干からびてしまった事もあります.イモが出来た鉢ではやや深めの所にイモを埋め直して(その方が温度変化を受けにくいだろうと思ったから)雨のかからない軒下に置いてそのまま夏越しさせた事もありました.ただ,その場合は古土のためイモを腐敗させる菌が潜んでいるかもしれず,秋に水やり開始するとイモが腐ってフニャフニャになる危険性がありました.そこで次にイモが出来ているのを確認したら,フルイにかけた土を入れた別のポットにイモを埋めて南ベランダ(雨の当たらない場所)で夏越しさせていました.秋に北バルコニー(露天で雨が降れば自然の恵みとなる)へ置くのですが,夏の間南ベランダは最高気温が43度という高温になります.焼きイモ…という程ではないですが,この気温を経験したイモが露天にさらされ,秋の長雨でほぼ全滅してしまった事がありました.

それで2016年度終了時(2017年春)からイモを室内保存してみました.花友さんの中にはこの方法でうまく芽だしされている方もおられます.
具体的には箱に新聞紙を敷き,イモの品種が分かるよう,大きなイモにはマジックで名前を記入しました.小さなイモはメモを貼っておきました.
秋にどうなるか興味津々で見ていたところ,季節を感じたイモから勝手に芽が出ていました.なんだ,今までの苦労は何だったんだ?と苦笑です.ただ,芽の出ないイモもあり,これは気温が落ち着いた10月に入った時点で全て土に埋めて北バルコニーへ出しました.そこで目覚めたイモもありますが,休眠のまま,あるいは発根したものの発芽はしないイモがいくつかありました.

目覚めなかったイモは来季どうなるか…(ダメになる事が多いけど)要観察です.
そして来年も室内保存方法を試してみたいと思っています.

【コラム】イモ,イモ,イモ…(2001年度栽培データより):イモの肥大の様子があります.

 栽培-種からの場合

種まきの時期 種まきは生育サイクルを考えて,9月から10月に行います.上記「用土」の欄を参考に種まきして下さい.種は表土から約1センチほどの深さに埋めます.以降,土がカラカラに乾燥しないよう,しかし湿りすぎにならないよう,水やりを行います.
発芽 種まきして早い場合は1ヶ月以内に,まるで髪の毛のような,枯れ枝のような「か細い」茎が土から出てきます.うっかりすると見逃してしまう程です.写真におさめようとすると,カメラのピント合わせに泣かされます.

青花ナスタの仲間は発芽が非常に気まぐれです.もし種まきした年に発芽しなくても諦めないで下さい.ウチでは諦めて「土捨て場」に捨てた土から翌秋発芽した事もあります.
【コラム】実験:発芽のメカニズム(2001年度栽培データより)
定植 茎が10センチほどに伸びてきたら定植です.なぜ10センチかと言えば,これ以上伸びると発芽したもの同士が絡まって大変だからです.

鉢は4〜5号深鉢が適当です.種からの場合は,あまり大きな鉢にしても意味がありません.青花ナスタ仲間は種からの場合,初年度は球根を得る事の方が大事です.球根は深い場所に出来る事が多いので,従って深鉢に定植します.茎が伸び過ぎる前に支柱を立て,時々茎を支柱に誘引するようにします.

ちなみに球根は必ず出来る訳ではありません.出来なかったら…今シーズンはきっぱり諦めましょう.(^^; そして来シーズン,また種まきから再挑戦して下さい.

種まきをした鉢(容器)から発芽した株を植え替える際には,根を傷つけないように気をつけます.茎はあまりに「か細い」ですが,根はしっかり白くて太い(普通の植物同様)です.私は植え替え時には,ティー・スプーンを使っています.細かく土をかき分ける事が出来て便利です.

 栽培-球根(イモ)からの場合(→2016年以前に実施していた方法)2017年改訂

球根を埋めて水やり開始 種まきの場合同様,9月から10月に水やりを開始します.球根の大きさに見合う鉢(ウチの場合は黒ポット)を用意し,種まきの場合と同じ用土を用い,球根を埋めます.深さは球根の厚みほど(表土から1〜2センチの深さ)にします.水やり方法も種まきの場合と同様で,「乾きすぎず・湿りすぎず」の状態を保ちます.

08/10/02追記:球根の向きについて
球根を埋める際,どちらを上にして埋めるか悩む場合があります.結論から言うと,たとえ向きを間違えて埋めてもちゃんと発芽しますので気にする事はないです.上下で悩んだら私は横たえて埋めることにしています.

下の写真は上下逆にして埋めていたブラキセラス19号の球根です.地上部に出てきた新芽は色づいていますが,地下部の新芽は白っぽい色をしています.球根を上下逆に埋めていた場合の例です.このようにたとえ逆向きに埋められていても,新芽は光を感知して地上部に出てきます.

写真:上下逆に埋めていた球根(ブラキセラス19号)


10/05/13追記:球根が目覚めない場合
その年の気候によるのか,球根の保存状態によるのか原因は定かではありませんが,時々球根からの発芽が見られない場合があります.そんな場合は諦めずに球根を捨てないで下さい.下記「発芽」の所にも書いているとおり,球根がフニャフニャになっていたらダメですが,固ければ翌シーズン,ヒョコッと発芽する可能性があります.
発芽 秋に水やりを開始すると,種からの時と同様,枯れ枝みたいな「か細い」茎が出てきます.種からの場合より,早いタイミングで発芽する(目覚める)事が多いです.また,水やり開始してから1〜2週間で発根が先に見られる場合もあります.

中にはウンともスンとも言わない球根もあります.シーズンを通して水やりしていたのに,ちっとも音沙汰無しのままシーズン終了という事もありました.こんな球根は残念ながらそのうち腐る運命のものが多いです.そのうちフニャフニャになり,捨てざるを得なくなるのです.ただし,例外もあります.

08/09/26追記:休眠中の球根からも発芽はあり得る!
今まではいったん休眠した球根は目覚めないと思われていましたが,2008年秋のシーズン開始以降,休眠中の球根から発芽が見られたという報告が2件ありました.
・1件は熊本県在住の方からの報告です.2006年種からスタートした青花ナスタが2007年球根となったもので,2007年秋からのシーズンは休眠,そして2008/09/03に発根のレポートがありました.
・もう1件は三重県在住の方からの報告です.熊本県の方とまるで同じパターンの青花ナスタ球根なんですが,今シーズン発芽したそうです.
08/11/01追記:休眠中の球根の発芽
ついに自宅でも休眠していた球根(T.beuthii3号)が目覚めました.2007年度はずっと休眠していたものです.発芽を確認した後は定植しました.その後無事に開花しています.

写真:休眠から目覚めたT.beuthii3号(10/26撮影)


という事で,休眠した球根があってもフニャフニャになったり干からびたりしていない限り保存しておいて下さい.そしてシーズンになったら水やりを開始し,様子を観察して下さい.うまくいけば発芽するかもしれません.
定植 球根に見合った大きさの深鉢を用意します.親イモが子イモを作る可能性もあります.単体植えの場合は5号〜7号鉢くらいが良いでしょう.

茎がどんどん伸びるので,早めに支柱を立てておきます.鉢と鉢との間の空きスペースが狭い我が家では,まめにチェックしないと隣の鉢の支柱に茎がからみついて大変な事があります.茎を支柱へ誘引する作業はこまめに行いましょう.
【コラム】イモ,イモ,イモ…(2001年度栽培データより):イモと植え付けた栽培鉢のデータがあります.

 栽培事例-2000〜2003年度の事例

ここでは,実際に栽培した青花ナスタの事例を取り上げます.青花ナスタの成長ぶりはまちまちで,初年度に開花しないこともあったり,また1つのみならず複数の球根が出来ることもあったり,種がたくさん採れて球根も太る時もあれば,休眠中の夏越しがうまく出来ず球根がダメになることもあります.

このような様々なドラマがある訳ですが,ここでは2000年度から2003年度にかけて栽培した青花ナスタの例をご覧下さい.例として,青花ナスタ12号(初年度開花せず(-_-;))と16号(複数のイモ誕生)を取り上げてご紹介します.

 青花ナスタ12号と16号:2000〜2003年度栽培記録